遠い記憶


小学生の頃、友人のM君の家に遊びに行った時のことです。
M君の家は僕が住む所から北の方角で京都の北山が迫る麓にありました。
そこには川が流れていて砂防ダムがありました。
普段は水も少なく小川のようですが台風や大雨の時には反乱するような砂防ダムでした。
M君の家はその砂防ダムにせき止められた砂地の上に点在した粗末な建物の一つでした。
広い砂地には所々にすすきが茂り中央には幅2メートルほどの小川がさらさらと流れています。
その日は太陽が照りつけ砂地は真っ白に乾ききっていました。
小川に渡された丸太を渡ると古板でつくられた小さな小屋がありました。
M君が開けてくれた戸の中へ入ると
そこは思っていたよりも明るくてはっきりと中の様子がわかりました。
壁板の隙間から差し込む光が片隅に置かれた水瓶を茶色く光からせていました。
たっぷりと水が溜められて側にはひしゃくが添えられていました。
「この水、飲むんか?」とM君に言ったかもしれない。
そこで私の記憶は途切れています。
それから後、放課後の砂場で相撲を取っていた時のことです。
原因が解らないままM君とつかみ合いの喧嘩になりました。
仰向けにころんだ僕の上に馬乗りになって来た彼は
顔を真っ赤にして僕を睨みつけたのです。
ここでまた記憶は途切れています。
そしてある日の夜中、僕の家から北の方角で火事がありました。
それは大文字山をも暗闇に浮かび上がらせるほどの大火となりました。
夜空を焦がす大きな炎をじっとこの目に焼き付けていた
あの出来ごとをぼやりと憶えております。
亀村俊二

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